探偵はどこまでやってくれる?


テレビドラマや小説の世界では、探偵は事件現場を自由に調査し、容疑者を追い詰め、時には危険な場面でも真実を暴いていきます。名探偵コナンやシャーロック・ホームズのような架空の探偵たちは、警察顔負けの推理力と行動力で事件を解決し、視聴者や読者を魅了してきました。しかし、現実の探偵業務は法的な制約の中で行われており、依頼者が期待するすべてのことができるわけではありません。

現実の探偵は、フィクションの世界とは大きく異なる環境で活動しています。厳格な法律の枠組みの中で、限られた手段を用いて情報収集を行い、依頼者の問題解決に貢献することが求められています。多くの人が探偵に対して抱いているイメージと実際の業務内容には大きなギャップが存在するのが現実です。実際の探偵がどこまでのサービスを提供できるのか、その範囲と限界について詳しく見ていきましょう。

探偵業務の法的枠組み

日本では探偵業法によって探偵の業務が厳格に規定されています。この法律は平成19年に施行され、それまで法的に曖昧な位置にあった探偵業界に明確なルールを設けました。探偵業法では、探偵業務を「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって依頼者の生活上、事業上の必要に基づく情報の収集を業務とし、面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を依頼者に報告する業務」と明確に定義しています。

この定義から分かるように、探偵が合法的に行えるのは、聞き込み、尾行、張り込みといった限定的な調査手法を用いた情報収集に限られます。警察のような強制捜査権限は一切なく、住居侵入や盗聴器の設置、他人の財産への無断侵入などの違法行為は絶対に行うことができません。これらの行為は刑法に抵触する可能性があり、探偵が行えば即座に犯罪となってしまいます。

また、調査対象は「特定人の所在又は行動についての情報」に限定されており、依頼者の生活上または事業上の必要性が明確に認められる場合にのみ調査が可能です。つまり、単なる好奇心や悪意に基づく調査依頼は受けることができないのです。探偵事務所は依頼を受ける前に、依頼内容が法的に適切であるかどうかを慎重に審査する義務があります。

さらに、探偵業法では探偵業者の届出制度を設けており、都道府県公安委員会への届出なしに探偵業を営むことは禁止されています。また、依頼者に対する重要事項の説明義務、契約書面の交付義務、秘密保持義務なども定められており、探偵業界の健全化と依頼者保護が図られています。

浮気調査における探偵の活動範囲

探偵業務の中でも最も多いのが浮気調査です。夫婦関係の悩みを抱える人々からの相談は年々増加しており、探偵事務所への依頼の約7割を占めるとも言われています。配偶者や恋人の不倫を疑う依頼者からの相談は後を絶たず、現代社会の複雑な人間関係を反映している現象でもあります。この分野で探偵がどこまでやってくれるのかを具体的に見てみましょう。

浮気調査では、対象者の行動パターンを詳細に把握するための張り込みや尾行が中心となります。探偵は対象者が自宅を出る時刻から帰宅するまでの全ての行動を克明に記録し、高性能カメラや望遠レンズを使用して写真や動画で証拠を収集します。不倫相手との密会現場、ホテルへの出入り、手をつないで歩く様子、キスやハグなどの親密な行為など、不貞行為を証明する決定的瞬間を捉えることが主な任務です。

現代の浮気調査では、GPSを活用した位置情報の把握や、SNSの動向監視なども重要な調査手法となっています。ただし、これらの手法も法的な制約の範囲内で行われなければなりません。例えば、GPS機器を対象者の車両に無断で取り付けることは違法行為にあたるため、探偵が行うことはできません。

調査の精度を高めるため、多くの探偵事務所では複数の調査員によるチーム体制で浮気調査を実施します。対象者に気づかれることなく長時間の尾行を継続するためには、調査員の交代や連携が不可欠です。また、調査対象者の警戒心を解くため、一般市民に紛れ込める服装や車両を使用し、自然な形で調査を進めます。

しかし、探偵ができることには明確な限界があります。例えば、対象者の携帯電話を盗み見たり、通話内容を盗聴したり、メールやLINEなどの通信記録を不正に取得したりすることは、プライバシーの侵害および不正アクセス禁止法に抵触する違法行為であり、絶対に行うことはできません。また、対象者や不倫相手に成りすまして接触を図ったり、虚偽の身分を名乗って情報を得ようとしたりすることも適切ではありません。

さらに、対象者の住居や職場に侵入して証拠を探したり、私物を持ち出したりすることも住居侵入罪や窃盗罪にあたる犯罪行為です。どれほど決定的な証拠が得られる可能性があったとしても、探偵が違法行為に手を染めることは絶対にありません。

調査期間については、依頼者の予算や希望する証拠のレベル、対象者の行動パターンによって大きく左右されます。確実な証拠を得るためには数週間から数か月の継続的な調査が必要な場合もありますが、タイミングが良ければ短期間でも決定的な証拠が得られることもあります。探偵は依頼者と十分に相談の上、最も効率的で経済的な調査プランを提案します。

人探し・所在調査の実際

行方不明になった家族や友人、昔の恋人や同級生、借金の連帯保証人として逃げた債務者など、人を探す依頼も探偵の重要な業務の一つです。現代社会では人々の移動が活発化し、人間関係も複雑化しているため、一度連絡が途絶えてしまうと自力で相手を見つけることは非常に困難になっています。この分野では、探偵の情報収集能力と調査スキル、そして長年培ってきた経験が大きく試されます。

人探しにおいて探偵が行うのは、対象者の最後に確認された住所や勤務先からの綿密な聞き込み調査、関係者への慎重な接触、各種データベースの活用、SNSやインターネット上の情報収集、住民票や戸籍の追跡調査などです。長年の経験と独自のネットワークを駆使して、わずかな手がかりから対象者の現在の居場所を突き止めていきます。

現代の人探し調査では、インターネットの普及により新たな調査手法も開発されています。FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSアカウントの特定、Googleストリートビューを活用した現地確認、各種検索エンジンを駆使した情報収集など、デジタル時代ならではの調査技術が活用されています。

また、探偵は対象者の生活パターンや趣味嗜好を分析し、行きそうな場所や利用しそうなサービスを予測することも得意としています。例えば、対象者が特定のスポーツを愛好していた場合、その競技場やクラブを中心に調査を展開したり、特定の職業に就いていた場合は同業者の集まりや業界団体を通じて情報を収集したりします。

ただし、人探しにも法的な制約と倫理的な配慮があります。探偵は対象者のプライバシーを最大限に尊重し、本人が発見されることを望まない場合は、その意思を最優先に考慮しなければなりません。特に、DV被害者やストーカー被害者が身を隠している場合、探偵は調査を拒否するか、極めて慎重に対応する必要があります。この場合、依頼者の事情がどれほど切実であっても、対象者の安全と人権を守ることが最優先されます。

また、未成年者の家出や失踪の場合は、まず警察への届け出を強く推奨し、場合によっては警察との連携を図ることもあります。探偵の調査は警察の捜査を補完する役割を果たすことが多く、両者が協力することでより効果的で迅速な結果が期待できます。探偵は警察では手が回らない細かな調査や、長期間にわたる継続的な調査を担当することで、重要な役割を果たしています。

人探し調査の成功率は案件によって大きく異なりますが、一般的には6割から7割程度とされています。手がかりが多く、対象者が隠れる意図がない場合は比較的高い成功率を期待できますが、意図的に身を隠している場合や手がかりが極めて少ない場合は困難を極めることもあります。

企業調査と信用調査

個人の調査だけでなく、企業からの依頼による調査も探偵の重要な業務分野です。現代のビジネス環境はますます複雑化しており、企業が抱えるリスクも多様化しています。取引先企業の信用調査、従業員の身元調査、競合他社の動向調査、知的財産の侵害調査、内部不正の調査など、ビジネスに関わる様々な調査が求められています。

企業調査では、公開されている情報の収集と詳細な分析が中心となります。登記簿謄本、決算書類、有価証券報告書、業界新聞記事、専門誌の記事、インターネット上の企業情報、口コミサイトの評判などを総合的に分析し、対象企業の財務状況、経営状況、社会的信用度、将来性などを多角的に評価します。また、実際に企業を訪問して外観や立地条件を確認したり、従業員や近隣住民、取引先関係者から聞き込みを行ったりすることもあります。

信用調査では、対象企業の代表者や役員の経歴、過去の事業実績、借入金の状況、支払い能力、業界内での評判などを詳細に調査します。特に大きな取引を開始する前や、重要な契約を締結する際には、相手企業の信用度を正確に把握することが企業経営上極めて重要になります。探偵は豊富な経験と専門知識を活用して、表面的な情報では見えてこない企業の実態を明らかにします。

競合他社の動向調査では、新商品の開発状況、マーケティング戦略、人事異動、設備投資の動向などを合法的な手段で調査します。業界展示会での情報収集、公開されている特許情報の分析、求人広告の分析、業界関係者からの聞き込みなどを通じて、競合他社の戦略を把握し、自社の経営判断に役立つ情報を提供します。

従業員の身元調査は、重要なポジションへの採用や昇進の際に実施されることが多くあります。履歴書に記載された学歴や職歴の真偽確認、前職での勤務態度や評価、犯罪歴の有無、借金や金銭トラブルの有無、反社会的勢力との関係の有無などを慎重に調査します。企業にとって人材は最も重要な資産であり、適切な人物を採用することは事業の成功に直結します。

しかし、企業調査においても探偵は厳格な法的制約の下で活動しなければなりません。産業スパイ行為、企業秘密の窃取、競合他社への潜入調査、盗聴や盗撮、コンピュータへの不正アクセスなどは絶対に行うことはできません。あくまでも合法的な手段によって得られる情報の範囲内で調査を実施し、依頼者企業に有益な情報を提供します。

従業員の身元調査については、雇用主の正当な利益を保護する範囲内で行われますが、プライバシーの侵害にならないよう細心の注意を払います。学歴や職歴の確認、犯罪歴の有無、借金や金銭トラブルの有無などは調査対象となりますが、思想・信条、政治的信念、労働組合への加入状況、家族の詳細な事情など、就業に直接関係のない事項については調査を行いません。これらの事項を調査することは差別につながる可能性があり、法的にも問題となります。

探偵に依頼できないこと


探偵に依頼できることがある一方で、明確に依頼できないことも多数存在します。これらの制約を理解することは、依頼者にとって適切な期待値を設定する上で重要です。

まず、違法行為や犯罪に関わることは一切受けることができません。住居侵入、窃盗、器物損壊、脅迫、恐喝、暴行、傷害などの犯罪行為は、どのような理由があっても実行することはできません。これらの行為は刑法に抵触し、探偵だけでなく依頼者も共犯として処罰される可能性があります。

盗聴や盗撮も絶対に行うことはできません。他人のプライバシーを侵害する行為は、プライバシー権の侵害にあたり、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。携帯電話の盗み見、メールやLINEの不正閲覧、無断でのGPS機器の設置なども同様に禁止されています。

また、復讐や報復を目的とした調査も受けることはできません。離婚した元配偶者への嫌がらせのための調査、ビジネス上の競争相手を陥れるための調査、個人的な恨みを晴らすための調査、元恋人に対する嫌がらせ目的の調査などは、探偵業法の趣旨に反するため拒否されます。探偵業は依頼者の正当な利益を保護するためのものであり、他人に害を与える目的での利用は認められていません。

ストーカー行為に該当する可能性のある調査も受けることはできません。一方的な恋愛感情に基づく対象者の監視や追跡、拒絶されているにも関わらず継続的に行う接触調査、相手の同意なしに行う過度な行動調査などは、ストーカー規制法に抵触する可能性があるため、探偵は細心の注意を払って依頼内容を審査します。

さらに、差別に関わる調査も行うことはできません。出身地、家系、血筋、宗教、政治的信条、学歴、病歴、障害の有無などを理由とした差別につながる可能性のある調査は、基本的人権の侵害にあたるため受けることができません。結婚前の身元調査においても、このような観点から慎重に判断されます。部落差別や在日外国人に対する差別を助長するような調査は、法的にも社会的にも許されません。

未成年者に対する調査についても特別な配慮が必要です。18歳未満の者に対する調査は、保護者の同意があっても、その調査が未成年者の利益にならない場合は拒否されることがあります。特に、いじめの加害者特定や交際相手の素行調査などは、未成年者の健全な成長を阻害する可能性があるため、極めて慎重に判断されます。拒否されます。

ストーカー行為に該当する可能性のある調査も受けることはできません。一方的な恋愛感情に基づく対象者の監視や追跡、拒絶されているにも関わらず継続的に行う接触調査などは、ストーカー規制法に抵触する可能性があるため、探偵は細心の注意を払って依頼内容を審査します。

さらに、差別に関わる調査も行うことはできません。出身地、家族構成、学歴、病歴などを理由とした差別につながる可能性のある調査は、人権侵害にあたるため受けることができません。結婚前の身元調査においても、このような観点から慎重に判断されます。

調査費用と期間の現実

探偵に調査を依頼する際に最も気になるのが費用と期間です。調査内容や難易度、必要な人員や機材によって大きく異なりますが、一般的な相場について説明しましょう。

浮気調査の場合、1日あたり8万円から15万円程度が相場とされています。これには調査員の人件費、交通費、機材費、報告書作成費などが含まれます。確実な証拠を得るためには複数日の調査が必要になることが多く、総額では数十万円から百万円を超える場合もあります。

人探し調査は案件の難易度によって大きく費用が変動します。比較的容易な調査であれば数万円から数十万円程度ですが、手がかりが少なく長期間の調査が必要な場合は百万円を超えることもあります。成功報酬制を採用している探偵事務所も多く、発見できなかった場合の費用負担を軽減する仕組みもあります。

企業調査や信用調査は、調査対象の規模や求められる詳細度によって費用が決まります。基本的な信用調査であれば数万円から十数万円程度ですが、詳細な財務分析や長期間の動向調査が必要な場合はそれ以上の費用がかかります。

調査期間については、浮気調査であれば数日から数週間、人探しであれば数週間から数か月、企業調査であれば数日から数週間が一般的です。ただし、これらはあくまでも目安であり、実際の期間は案件の内容や進捗状況によって大きく変わります。

まとめ

探偵は法的な制約の中で、聞き込み、尾行、張り込みといった合法的な手段を用いて情報収集を行う専門家です。浮気調査、人探し、企業調査など様々な分野で活動していますが、違法行為や人権侵害につながる調査は一切行うことができません。

依頼を検討する際は、探偵ができることとできないことを正しく理解し、現実的な期待を持つことが重要です。また、信頼できる探偵事務所を選び、事前に十分な相談を行うことで、満足のいく結果を得ることができるでしょう。

探偵の調査能力は確かに高いものがありますが、万能ではありません。法律の範囲内で、依頼者の正当な利益を保護するために最善を尽くすのが探偵の役割なのです。